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〔本感想〕 ソラリス スタニスワフ・レム

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)

◆ 人知を超越した存在とのSF邂逅譚。前半はホラー風味。

SFホラーな前半
 異変が起きた惑星ソラリスのステーションへ、送り込まれた心理学者・ケルヴィン。
 ステーションで待ち受けていたのは生きている人間の歓待ではなく、機械音声のみ。気味の悪いステーション内部をおそるおそる探索したケルヴィンは、生き残り・スナウトと出会う。スナウトもなにやら尋常ではない様子で……。
 と、こんな具合なので、話の導入部を読めばSFホラーな前半と書いたわけが分かってもらえるはず。

 ソラリスには、便宜的に「海」と呼ばれる、惑星規模の存在があります。
 「海」は機械のような正確さで惑星そのものに修正を施しながら、人知をこえた動きを繰り返す未知の生命体です。作中では、「海」と人々が繰り広げてきた苦闘、数々のコンタクト失敗といった、「海」との歴史もひもとかれています。

 「海」はあるとき、その人間の奥底にある深層心理、いちばん深いところに封じた思い出を読み取り、「それ」を体現する人物を蘇らせて見せました。これこそがステーションを襲った異変の元凶であり、スナウトの異様な様子の理由でもあります。
 要領を得ないスナウトの説明にいら立っていたケルヴィンが、朝起きると、かたわらには、何年も前に自殺した恋人・ハリーがいました。彼女は何をやってもケルヴィンから離れられません。ハリーであってハリーでない、そのおぞましさゆえケルヴィンが狂気へ走り、ロケットに積み込み宇宙空間へ射出しても、またその記憶を忘れてそばに戻ってきます。

 彼女をだまして宇宙空間へ飛ばすときの一連のシーンはもう笑えるくらいにホラーです。「クリス!」(ケルヴィンのファーストネーム)と何度も叫びながら、鋼鉄に覆われた内壁が破れんばかりにボコボコと殴りつけるハリー(状のもの)、怖すぎます。

「海」とのコミュニケーション
 ただ、「海」の手のひらの上ではどうあがいても無駄だと悟ったケルヴィンがあきらめてからは、そんなホラーの空気も薄らぎます。
 ケルヴィンの反応の断片を受け取っているうちにハリーは少しずつ自分の正体にも気づき始め、「海」が人間という存在を認識していることが明らかになっていく。そして、「海」と人間のあいだには限りない断絶が広がっている……。絶対にハッピーエンドにはなり得ない、「海」によって「造られた」ハリーとケルヴィンの話も切ないです。けれど、「海」と人のあいだに横たわる壁は、それにさらなる感慨を上乗せしてきます。

 結局物語の上では、「海」とのコミュニケーションに失敗します。
 無理やり擬人化すれば、「海」は核酸の言語によって多分子の非同時性結晶の上に書きとめられた絵のようなもの(思い出)をそのまま再現してみましたが、コミュニケーションは失敗し、ステーションの人間を恐慌に陥れました。
 人間から試みた数多くのコミュニケーションももちろん失敗し、積極的な反応を生み出すことはできませんでした。
 ですが、ある学問では(名前は忘れてしまいました)、コミュニケーションに失敗しても、試みた時点でコミュニケーションは成立したとみなすのだそうです。こう考えるなら、失敗を続けた二つの生命体の間にはすでに、コミュニケーションは成立していることになります。

 毎年研究費を減らされ続けるソラリス・ステーションがどうなるかはわかりません。けれど「海」とのコミュニケーションの結果生まれたものは、人類のなかに抜けない棘を残し、ケルヴィンの胸に残り続けていくはずです。

まるで海から伸縮自在の花が生え出てきて、その花びらが私の指に触れないまま鋳型のように指を取り巻いてしまったかのようだった。私は後ずさった。しなやかで柔らかい茎が震えはじめ、いやいやながらのように下に戻った。そして心許なげなその茎を波がさらって呑み込んだかと思うと、岸の縁の向こうに消えてしまった。私はこのゲームを繰り返そうとしたが、やはり百年くらい昔と同様に、次に寄せて来た波はまるで新しい印象には飽き飽きしたとでも言わんばかりに、無関心に引いていった。(342ページ)





(欄外)
2004年出版。1959~60年に書かれた原作の新訳。
ただの新訳ではないのは、ポーランド語をそのまま訳出したところ。
ロシア語を経由した、先行する訳の脱落部分を補っているようです。
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