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〔本感想〕 立原道造詩集 杉浦明平編

立原道造詩集 (岩波文庫)

◆ 野景をうたった詩人・立原道造 “僕は風と花と雲と小鳥をうたつてゐればたのしかつた。詩はそれをいやがつてゐた”

 冒頭に引っぱってきた文章は『詩は』の一節です。
 この言葉通り複数の詩集にわたって、風のうた花のうた空のうたなどが多く収録されています。本書の中に野景という言葉を使った詩があったのですが、これらの詩たちは野景という言葉がよく似合います。

 その日は 明るい野の花であつた
 まつむし草 桔梗 ぎぼうしゆ をみなえしと
 名を呼びながら摘んでゐた
 (『甘たるく感傷的な歌』一部)

 「まつむしそう」「ききょう」「ぎぼうしゆ」「をみなえし」と呼びながら。
 なんだか自然と映像がうかびますね。浮かんだ映像や再現された感情はそれぞれでしょうけど、たった三行の言葉でこんなことができるのは本当にすごい。

 こういったもの以外の、寂しい詩や切ない詩ももちろんあります。どちらかというとそちらを目当てで読みましたが、明るい詩もあるからこそ、強すぎるかげを描く必要がなく、少しのかげでより濃く見えるようになっています。
 私が特に好きなのはその濃淡がより楽しめる、「拾遺詩篇」の章でした。拾遺なので作者が意図する統一感というものはないでしょうが、どの詩も素晴らしい出来ばえ。

 風、野景、鳥、空、光、別れ、追憶、ふるさと、歌うことをやめた詩人……。
 最後にいくつか引用してみるので、興味がわいたら、五感を刺激する立原道造の世界にひたってみてください。


何処へ?
Herrn Haga Mayumi gewidmet


深夜 もう眠れない
寝床のなかに 私は聞く
大きな鳥が 飛び立つのを
――どこへ? ……

吼えるやうな 羽搏きは
私の心のへりを 縫ひながら
真暗に凍つた 大気に
ジグザグな罅《ひび》をいらす

優しい夕ぐれとする対話を
鳥は 夙《とう》に拒んでしまつた――
夜は眼が見えないといふのに

星すらが すでに光らない深い淵を
鳥は旅立つ――(耳をそばたてた私の魂は
答のない問ひだ)――どこへ?



私はそれを見たがまたただ一散に駈けてしまつた
 (『風のうたつた歌』一部)

夏になつたら、それは花が咲いたらといふことだ、高原を林深く行かう。もう母もなく、おまへもなく。つつじや石楠《しゃくなげ》の花を踏んで。
 (『天の誘ひ』一部)

部屋数のあまつた宿に 私ひとりが所在ないあかりの下に その夜から いつも便りを書いてゐた
 (『夏の旅』一部)

田舎娘は 竈の下に
火を焚きながら
今度は自分のためにだけ
小鳥や真珠や花でいつぱいな
買い物籠の唄をうたふ
 (『天の籠』一部)
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